書評】『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(リンダ・グラットン) 執筆:祝田 良則
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お薦めの本の紹介です。
リンダ・グラットン先生とアンドリュー・スコット先生の『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』です。
リンダ・グラットン(Lynda Gratton)先生は、ロンドン・ビジネススクールの教授で、人材論、組織論の世界的権威として有名な方です。
アンドリュー・スコット(Andrew Scott)先生は、ロンドン・ビジネススクールの教授で、財政政策、債務マネジメント、金融政策など、マクロ経済がご専門の経済学者です。
100年ライフでなにが変わる?
私たちは、それまでの生き方と働き方を大きく様変わりさせる、大きな変化の中にいます。
その大きな変化とは、「長寿化の進行」です。
私たちの人生は、これまでになく長くなる。私たちは、人生のさまざまな決定の基準にしているロールモデル(生き方のお手本となる人物)より長い人生を送り、社会の習慣や制度が前提にしているより長く生きるようになるのだ。それにともなって、変わることは多い。変化はすでに始まっている。あなたは、その変化に向けて準備し、適切に対処しなくてはならない。本書は、その手助けをするために書いた本だ。
長寿は、今日の世代が享受できる恩恵の一つと言えるかもしれない。平均して、私たちは親の世代より長く、祖父母の世代に比べればさらに長く生きる。私たちの子供や孫の世代は、もっと長く生きるようになるだろう。今進んでいる長寿化は、私たちすべてに少なからず影響を及ぼす。
(中略)
長寿化は非常に重要なテーマだ。そのわりには、一般向けの出版物で取り上げられることが少ないように見える。この点は不可解と言わざるをえない。なにしろ、この問題は一部の人だけでなく、すべての人に影響を及ぼす。しかも、遠い未来の話でもない。すでに現実化しはじめている。それは小さな問題でもない。長寿化に正しく対応できれば、計り知れない恩恵を得られる。では、どうしてこの問題があまり論じられていないのだろう?
アメリカ建国の父の一人であるベンジャミン・フランクリンの有名な言葉に、「この世で確実なものは、死と税金だけだ」というものがある。いずれも不幸の種というわけだが、長寿化も死と税金の問題と思われているために、不人気なテーマなのだろう。長寿化に関連して話題に上るのは、病気や衰弱、認知症、医療費の増大と社会保障危機といった暗い話ばかりだ。
しかし本書で論じるように、将来を見通してしっかり準備すれば、長寿を厄災ではなく、恩恵にできるかもしれない。長寿化は、私たちに多くの可能性と多くの時間をもたらす。長寿化への対応の核心は、増えた時間をどのように利用し、構成するかという点なのだ。『LIFE SHIFT ライフ・シフト』 序章 より リンダ・グラットン・アンドリュー・スコット:著 池村千秋:訳 東洋経済新報社:刊
長寿化時代に、人生のあり方根本から変わります。
著者は、変化のペースはゆっくりだが、最終的には社会と経済に革命的な変化がもたらされる
と指摘します。
本書は、これからの「100年ライフ時代」で何が変わるか、その恩恵を受けるためには何を変える必要があるのか、わかりやすく解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
平均寿命は今後も延びる
私たちの寿命は右肩上がりに延び続けています。
これからもその傾向は続く見通しです。
人口学者が、いまの子どもたちの平均年齢を推計した結果が、下の図(図1-1)です。
2007年に生まれた日本の子どもは、107歳まで生きる確率が50%あるということ。
図1-1.2007年生まれの子どもの半数が到達する年齢
(『LIFE SHIFT ライフ・シフト』 第1章 より抜粋)
図1-1の未来予測と過去のデータを比べると、いま8歳の子どもと100歳以上の人の違いがよくわかる。約100年前の1914年に生まれた人が100歳まで生きている確率は1%にすぎない。今私たちのまわりに100歳以上の人がほとんどいないのは、そのためだ。100年生きることはきわめて難しかったのである。それに対し、図1-1によれば、2017年の世界では100歳以上の人が珍しくない。というより、100年生きることが当たり前になっている。その頃、いま8歳の子どもの半分がまだ生きているのだ。
(中略)
平均寿命の大幅な上昇は、一つの理由では説明できない。それは、短期間の変化の結果でもない。過去200年のほとんどの期間、平均寿命は右肩上がりで延びてきた。1840年以降、データがあるなかで最も長寿の国の平均寿命は、1年に平均3ヶ月のペースで上昇している。10年ごとに2~3年ずつ寿命が延びている計算だ。
図1-2(下図を参照)は、19世紀半ば以降の平均寿命の推移をまとめたものである。これだけ長い期間、平均寿命が一貫して延び続けてきたことは特筆すべきだ。每年の世界1位の国の平均寿命(「ベストプラクティス平均寿命」と呼ばれる)を時系列でグラフ化したところ、ほぼ一直線に上昇する線が描かれたのだ。しかも、このペースが減速する気配は見られない。当分の間は、この傾向が続くだろう。日本では、2007年に生まれた子どの半数が107歳より長く生きると予想されるが、この数字はその後も延び続けている。2014年に生まれた子どもの場合、その年齢は109歳だ。
100年前の人が100歳まで生きる確率はごくわずかだった。いま8歳の子どもが100歳まで生きる確率はかなり高い。では、その中間の世代はどうなのか? つまり、あなたはどうなのか?
端的に言えば、若い人ほど長く生きる可能性が高い。10年ごとに平均2~3年のペースで平均寿命が上昇していることを考えると、2007年生まれの50%が到達する年齢が104歳なら、10年前の1997年生まれの人の場合、その年齢は101~102歳という計算になる。さらに10年前の1987年に生まれた人は、98~100歳だ。1977年生まれは95~98歳、1967年生まれは92~96歳、1957年生まれは89~94歳となる。『LIFE SHIFT ライフ・シフト』 第1章 より リンダ・グラットン・アンドリュー・スコット:著 池村千秋:訳 東洋経済新報社:刊
図1-2.ベストプラクティス平均寿命
(『LIFE SHIFT ライフ・シフト』 第1章 より抜粋)
人類の寿命は、10年ごとに2~3年というものすごいペースで延びているのですね。
「60歳まで勤め上げて定年退職し、余生を楽しむ」
そんな人生設計は、もはや通用しなくなっている。
それが、統計データからも実証されたということです。
「レクリエーション」と「リ・クリエーション」
長寿命化は、時間の使い方、とくに余暇時間の使い方も大きく変化させます。
著者は、100年ライフでは、家族と友人、スキルと知識、健康と活力などの無形の資産を充実させることの重要性が高まり、そのための投資が必要になる
と指摘します。
長い人生を生きる人には、これらの資産への投資、とりわけ「教育への投資」が不可欠です。
余暇の時間の位置づけと使い方も含めて、時間に関する今日の考え方の多くは、産業革命期に形成されたものだ。農業労働――突発的な出来事が多く、ペースがゆっくりしているのが特徴だ――における時間の概念のままでは、工場労働に対応できなかった。それに加えて、機械時計の精度が向上し、価格が下がったことにも後押しされて、この時期に勤務時間の時間割が明確に定められるようになった。工場労働が労働時間の画一化を生み、仕事と家庭の分離をもたらしたのだ。余暇時間もはっきり決められた。それまでは農閑期が余暇の期間だったが、産業革命以降は、余暇時間の塊がいくつか生まれた。子ども時代と引退期間、夜と週末、クリスマス休暇と夏休みである。
まとまった余暇時間を獲得した人々は、それをどのように使ったのか? 1週間あたりの労働時間の削減と週休2日制の導入を求めた労働運動は、長く過酷な仕事のあとで心身をリフレッシュするためにそうした時間が必要だと主張していた。仕事と家庭が分離され、工場での児童労働も禁止されたため、家族が一緒に過ごす時間を確保したいという欲求もあった。
余暇時間が増えるにつれて、レジャー産業が成長した。都市化の進行と余暇時間の標準化を追い風に、新しい形態の娯楽ビジネスが生まれたのだ。コンサートホールや映画館、プロサッカーは、そのわかりやすい例だ。産業革命以前の余暇活動は公共空間で野放図に実践されていたが、産業革命が進むにつれて、それが商業化され、規格化されていった。
この100年間も、レジャー産業は目に見えて成長し続けてきた。余暇時間が増えて、レジャー産業の規模が大きくなると、人々が自由に使える時間は余暇活動に費やされることが多くなった。テレビを見たり、スポーツを観戦に行ったり、買い物をしたり、レストランで食事をしたり、豪華旅行をしたりといった活動である。これらはことごとく、時間を使うというより、時間を消費する活動だ。
しかし、平均寿命が延び、無形の資産への投資が多く求められるようになれば、余暇時間の使い方も変わる。時間を消費するのではなく、無形の資産に時間を投資するケースが増えるだろう。レクリエーション(娯楽)ではなく、自己のリ・クリエーション(再創造)に時間に使うようになるのだ。「労働時間の節約は自由時間を増やす。つまり、個人の発達を完成させるための時間をもたらすのである」と、カール・マルクスも述べていた。リ・クリエーションは個人単位で実践されることが多く、一人ひとりが自分なりにリ・クリエーションとレクリエーションを組み合わせて余暇時間を形づくるようになるだろう。過去100年間は、商業化された娯楽の消費活動を中心とするレジャー産業が台頭したが、今後は、個人レベルでの自己改善への投資活動に力を入れるレジャー産業が発展するかもしれない。『LIFE SHIFT ライフ・シフト』 第8章 より リンダ・グラットン・アンドリュー・スコット:著 池村千秋:訳 東洋経済新報社:刊
寿命が長くなるということは、働く期間も、それだけ長くなるということ。
また、人工知能(AI)などの技術革新により、求められる能力もどんどん変わっていきます。
これからの時代、一つのスキルだけを身につければ、それで生涯安泰というわけにはいきませんね。
つねに学び続ける必要があるということです。
もちろん、長期間働くためには、心身の健康を保つ必要もあります。
そのための自己投資も不可欠でしょう。
「レクリエーション(娯楽)」から「リ・クリエーション(再創造)」へ。
若い世代ほど、意識の切り替えが必要となりますね。
勤労人口に対する引退人口の割合を「老年従属人口指数」といいます。
2050年、日本の老年従属人口指数は、なんと70%にも達するそうです(下図2-2を参照)。
図2-2.老年従属人口指数
(『LIFE SHIFT ライフ・シフト』 第2章 より抜粋)
このままただ時間だけが過ぎていけば、いずれ破綻するのは、火を見るより明らかです。
遅まきながら、国や企業も対策に乗り出していますが、効果が出るのは、まだまだ先の話。
個人は個人で、できることをやっていかないと、手遅れになりかねません。
自分の身は自分で守るしかないということです。
「生き方をシフトする」ことは、これからの時代を生き残るための必須条件。
本書はそれを、膨大なデータを使ってあらゆる角度から示してくれます。
これからの生き方の指針を示してくれている、日本人のための一冊といえます。
↓本書について、もっと詳しくお知りになりたい方は、こちらをどうぞ!
http://maemuki-blog.com/?p=10974
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