【書評】『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷亮) 執筆:祝田 良則
お薦めの本の紹介です。
久賀谷亮先生の『世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』です。
久賀谷亮(くがや・あきら)先生は、脳科学、薬物療法がご専門の医師です。
脳は「何もしない」でも、勝手に疲れていく
「どれだけ休んでも、眠っても、なんとなくダルい」
その原因は、身体の疲れではなく、「脳の疲れ」にあります。
しばしば言われることですが、脳は体重の2%ほどの大きさにもかかわらず、身体が消費する全エネルギーの20%を使う「大食漢」です。さらに、この脳の消費エネルギーの大半は、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という脳回路に使われています。
DMNとは、内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部(けつぜんぶ)、下頭頂小葉などから構成される脳内ネットワークで、脳が意識的な活動をしていないときに働くベースライン活動です。自動車のアイドリングをイメージしてもらうとわかりやすいでしょうか。
(中略)
このDMNは、脳の消費エネルギーのなんと60~80%を占めていると言われています。
つまり、ぼーっとしていても、このDMNが過剰に働き続ける限り、脳はどんどん疲れていくわけです。
「一日ぼーっとしていたのに、なぜか疲れが取れなかった」という人は、このDMNに過剰な活動を許してしまっているのかもしれません。
つまり、DMNの活動を抑える脳構造をつくっていかないと、あなたに真の休息は訪れないというわけです。
実際のところ、疲労感とは脳の現象にほかなりません。物理的な疲労以上に、まずは脳の疲労が「疲れた」という感じをあなたの中にもたらしています。その意味では、「脳の休息法」を手に入れることこそが、あなたの集中力やパフォーマンスを高める最短ルートになるのです。
『世界のエリートがやっている 最高の休息法』 はじめに より 久賀谷亮:著 ダイヤモンド社:刊
DMNの働きを抑え、脳を休ませる。
そのカギを握るのが、「マインドフルネス」と呼ばれる手法です。
マインドフルネスとは、ひと言でいうと瞑想などを通じた脳の休息法の総称
です。
本書は、「最高の休息法」であるマインドフルネスを、脳科学的な知見から解説した一冊です。
主人公で、脳科学者を目指すイェール大学研究員、小川夏帆(ナツ)。
イェール大学の教授で、脳科学の大家、ラルフ・グローブ博士(ヨーダ)。
ヨーダは、ナツのマインドフルネスの師匠です。
本編は、物語形式で描かれ、この2人の登場人物を軸に展開しています。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
疲れない脳の構造は「自分でつくれる」
マインドフルネスは、脳の一時的な働き具合だけではなく、脳の構造そのものをかえてしまう
効果があります。
「マインドフルネスの父とも言われるジョン・カバット=ジンの名前は知っておるかな? マサチューセッツ大学のカバット=ジンは、従来の認知療法に瞑想を組み込んだマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR:Mindfulness-based Stress Reduction)という独自の方法を構築した人物じゃ。
彼らのグループによる2005年、2011年の研究によれば、MBSRを8週間にわたって実践したところ、大脳皮質(脳の表層の最も進化した部分)の厚さが増したという。要するに、脳の機能が高まったということじゃな。そのほか、老化による脳の萎縮に対しても効果があったという報告もある。また別の研究では、左海馬、後帯状皮質、小脳で灰白質の密度増加が見られたというから、とくに記憶に関連する脳部位が強化される可能性もあるな。
容積の変化だけではないぞ。ブリューワーが言うように、脳の各部位のつながりも、マインドフルネスは変化させるんじゃ。経験ある瞑想者では後帯状皮質と背側前帯状皮質あるいは背外側前頭前野の連結が増しておったというからな。つまり、瞑想を継続的に行うことで、DMNの活動をコントロールできるようになるわけじゃ。となると、誰にでもさまよわない心、疲れづらい脳をつくることは可能じゃと考えられる」
脳が絶えず自らを変化させるということ、いわゆる脳の可塑性については以前から明らかになっている。もしも今後の研究が進めば、マインドフルネスは人間が自分の脳を自由に変化させるための有効な手段になっていくだろう。
『世界のエリートがやっている 最高の休息法』 Lecture 1 より 久賀谷亮:著 ダイヤモンド社:刊
図1.瞑想は「8つの脳部位」の構造を変える
(『世界のエリートがやっている 最高の休息法』Lecture 1 より抜粋)
脳の「働き具合」だけでなく、「つくり」を変えてしまいます。
つまり、ストレスに強い脳を、自分でつくり出せるということです。
「脳が疲れる理由」に気づく方法
ナツは、ヨーダから、マインドフルネスの具体的なやり方を教わります。
ヨーダは最初に、椅子に楽に腰掛けるように言った。背筋は軽く伸ばし、背もたれから離す。そのときのコツが「背中はシャッキリ、お腹はゆったり」なのだそうだ。手は太ももにの上に置く。脚は組まないようにして、足の裏を地面にぺたりとつける。目は閉じてもいいし、開けていてもいい。開けるのなら、2メートルくらい先を見るイメージにするといいそうだ。
「うむ、それが基本姿勢じゃ。大事なのが何もしようとしないこと。ただここにあることを自分に許すんじゃ」
(中略)
「まず自分の身体の感覚に意識を向けてみることじゃ。足の裏が床に触れている感覚はあるか? 手が太ももに触れている感覚は? お尻が椅子に触れている感じもするはずじゃ。身体全体が地球に引っ張られている重力も感じるかな?」
何をやっているのかさっぱりわからない。たしかにヨーダの言うとおり、それぞれに意識を向ければ感覚はある。しかし、わかりきったことではないか。20秒もすると、もう耐えられなくなってきた。
「次にな、呼吸に注意を向けてごらん。呼吸に関係する感覚を意識するんじゃ。空気が鼻を通る感覚はあるか? 胸に空気が入るにつれて、胸が膨らむ感じは? お腹が持ち上がる感覚は?」
「(・・・・・何なの、これ? 深呼吸くらいわざわざ教えてもらうまでもないわよ!)」
「これは深呼吸とは違うぞ」
私のイライラを読み取ったヨーダは静かに言った。「呼吸をコントロールしようとしたり、変えようとする必要はない。いい呼吸も悪い呼吸もない。自然に起きるままにしたらいいんじゃ。とにかく呼吸に細かく注意を向ける。呼吸と呼吸のあいだに、短い切れ目があることには気づいたかな? 1回、1回の呼吸の深さが違うことは? 吸う息と吐く息の温度の違いもあるな? 細かなことに好奇心を持つんじゃ」
なるほどたしかに呼吸はみんな同じではない。考えてみたことすらなかった。普段何気なくやっていることが、途端に新鮮に感じられる。
が、それも一瞬のことだった。すぐに私の中にはいろいろな考えが浮かんでくる。
(中略)
やはりヨーダは私の心の乱れを見逃さない。
「ほかの考えが浮かんでくるのは自然なことじゃ。浮かんできたら、それに気づくだけでいい。そしてまた呼吸へ注意を戻す。やさしく、ゆっくりとな。呼吸は意識の錨じゃ。風が吹いたり波が荒れようと、錨(いかり)があれば船はそこから流されん。どんな雑念が心に吹き荒れようとも、呼吸を見失わなければ大丈夫じゃよ」
『世界のエリートがやっている 最高の休息法』 Lecture 2 より 久賀谷亮:著 ダイヤモンド社:刊
呼吸は、止まることはありません。
だから、意識を呼吸に戻そうとすれば、いつでも戻すことができます。
呼吸は意識の錨。
覚えておきたいですね。
マインドフルネスはちょうど脳科学と瞑想、西洋と東洋の交差点にあるとおっしゃっています。
何千年もの長い年月をかけて育まれてきた東洋の神秘。
時代の最先端をいく西洋の科学や医学。
このふたつが結びついて生まれたのが、「マインドフルネス」です。
近年のグローバル化を象徴するハイブリッドなメンタルケアといえます。
本書は、物語形式で読みやすく、マインドフルネスの導入書として最適です。
「マインドフルネスって何?」
「マインドフルネスなんて効果あるの?」
そういう人にこそ、一読して頂きたい一冊です。
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